アンドロイドは電気少女の夢を見るか?
#2

 それから、僕たちはちょくちょく会っては一緒に遊びにいく仲になった。
 同じ日雇いの仕事をこなしたり、彼が劇団の稽古場まで見学に来てくれたりした日には、たいてい僕のアパートで語り明かした。
 こんなに他人とわかりあえるなんて、今までになかったし、思ってもみなかった。
 長い長い歴史の果てで、ついに人類は、最高の友人を得たのだ。

「好きなコがいるんだ」
 松山君は唐突に告白した。相当酔いがまわっていたせいかもしれないし、僕がしつこく聞いたせいかもしれない。
「へへへ、ようやく白状したね。どんな娘なんだよ。俺も知ってるヤツ?」
 口調が下世話な感じになってしまった。僕も相当酔っているらしい。
 だが、松本君はそれ以上は話そうとはしなかった。
 何故、と問いただすと、彼は一言「君に嫌われたくないから」と告げた。
 一瞬、「好きなコ」っていうのは僕のことだったのか、なんて違う方向に考えがいってしまったが、それはないと思いなおした。
 アンドロイドには、(信じられないことだが!)基本的にゲイもレスビアンもいない。理由はわからないが、人間とは根本的に違うのだろう。生れつきゲイやレスビアンとして製造されるアンドロイドの例も過去にはあったらしいのだが、いまはそういった「加工」は非道徳的だとされている。
 ちなみに、一応断っておくが、僕もゲイではない。
 僕がしつこく質問をくり返すと、彼は観念したのかようやく堅い口を開いた。
「その娘、アンドロイドなんだ…」
 彼は照れながらも、相手のアンドロイドがいかに清純で、可愛らしいかをせつせつと語り始めた。

 僕は仰天した。
 アンドロイドがアンドロイドを好きになるなんて、そんな非道徳的な話はない。そもそも、アンドロイド同志の婚姻どころか恋愛すら法律で認められていないのだ。
 僕は取り乱し、彼をその馬鹿げた妄想から開放するため、説得をくり返した。しかし、彼は僕の言うことに耳を貸そうとはしなかった。むしろ、僕に告白したことにたいして、激しい後悔の念を抱いているようだった。
 僕は説得を続けた。
 母の胎内から生まれるのが人間で、人間の手により製造されるのがアンドロイドである。ならば、もし、アンドロイドとアンドロイドがセックスをして子をなしたのなら、その子供は人間なのかアンドロイドなのか? 答えはもちろん、人間である。
 人間の力も借りずに、アンドロイドだけで人間を造るなんてことがあっていい道理はない。そもそも、アンドロイド同志の恋愛なんて野蛮な行為が許されるとでも思っているのか。これは、人間に対する冒とくだ。いわば反逆なのだ。
 僕の説得は、やがて罵倒に変化し、僕の口からは彼に対する罵詈雑言が次々と飛び出していった。

 彼は何か言い返そうとしたが、何も言わず、一瞬だけ悲しそうな顔をして、僕の部屋から出ていった。そのころにはすっかり酔いもさめていたが、僕は追わなかった。
 アンドロイドは、所詮、人間の形をしただけの野蛮なイミテーションだったということだろうか? いや、そう考えてしまっては他の良心的なアンドロイドに悪いだろう。
 やはり、彼は異端者だったのだ。僕は失望した。そして、一瞬でもあんなヤツを友達だと思ってしまった自分を恥じた。

 そして、彼は二度と僕の前に現われることはなかった。
Prev


[0]Back